アンナンはフランスの植民地になっていたこともあり、アジアとしては珍しく、1800年代初頭から西洋基準の大型銀貨を造っていました。但し、このコインは庶民が一般に使用したものではなく、贈呈などの用途でごく僅かに造られたものです。しかも第二次世界大戦終結以降、フランスが撤退する折にその大半が持ち出されたうえ溶解されたと考えられ、このコインは現在ほとんど残っておりません。
わずかに残されたコインも大半は首からかけるため上下に穴があいています。穴あけを免れたとしても多くは磨きや洗浄痕があって、鑑定会社のケースにおさまり且つ数字が付くものはとても希少です。
従ってNGCにせよPCGSにせよ、アンナンのコインの多くは数字なしのDetail鑑定になりますが、本貨は希少な「数字付きのアンナン」でしかもMS(未使用クラス)鑑定です。なおNGC社/PCGS社による本銘柄(Schroeder #372.1)の鑑定分布は以下の通りです。
▪PCGS:MS63(1枚)、MS61(2枚)、UNC Detail(1枚)
▪NGC:MS65(1枚)、MS64(1枚)、MS62(1枚/本貨)、AU Detail(1枚)
ご覧のようにNGC/PCGSあわせても7枚しかありません。
嗣徳通宝5銭銀貨は様々なバラエティがありますが、この銘柄「龍文」は特に希少品で、たとえばNGC社は「嗣徳通宝の5銭銀貨」を157枚鑑定していますが、うち「龍文」(Schroeder #372.1とSchroeder #372.2の合計)は7枚しかありません。このことからも嗣徳通宝「龍文」5銭銀貨の希少性がわかります。なお#372.1(本貨)と#372.2の違いはオモテ面の真ん中に描かれた太陽の図柄です、前者(本貨)は太陽が小さく描かれており、後者は大きく描かれています。両者の価格に差はなく、MS60で2,160ドルとなっています。
注)Standard Catalog of World Coins 9th Editionによりますが、もちろんこれは過去の相場です。
さてこのコインについてです。
オモテは中央に太陽が描かれており、その左右には「龍文」の文字があります。コインの周辺部は花びらが描かれており、太陽を取り巻いて飛ぶ龍がデザインされています。花弁と太陽、龍のバランスが素晴らしく、アンナンにしては珍しくデザイン性に富んだ銘柄です。ウラは周囲を取り巻く花びらの中央に、当時の王様の名前をとった「嗣徳通宝」の文字があります。色合いはオモテがやや明るい銀色で、わずかなシャンパン系のトーンが全体をおおっています。ウラは沈んだ銀色ですが、光の当て方によって深い銀色に輝きます。NGC社の鑑定通り両面とも手が加わった痕跡がなく、発行されてから160年ほど経た落ち着いたコインです。摩耗やキズ、すれなどもほとんど見当たらず、もとの所有者が大切に保管していたのだと思います。
アンナンはアジアでは珍しく、すでに1800年代の初頭からこのような世界基準の大型銀貨が発行されました。近年、中国コイン高騰によって、1800年代終盤から1900年代前半に造られたアジア諸国のコインに見直し買いが入りつつありますが、本貨もアジア最初期の大型銀貨で希少性が高く、これから折に触れ注目を集めるのではないでしょうか。ご参考までに、たとえば1900年代初頭に発行された中国コインの中には、数万枚という単位で鑑定されている銘柄がありますし、1800年代後半に日本で発行された円銀も、全年銘を合わせると1万枚以上が鑑定されています。それらと比べるとこの銘柄の残存数の少なさがわかります。
なお「ときいろ」では今年この銘柄のPCGS-UNC Detailを64.8万円で販売しましたが、数字アリの5銭銀貨を販売するのは初めてです。国内のオークションでもアンナンの5銭・7銭銀貨の数字付きコインが出てくることはまれで、店主はここ1年ほど目にしていません。
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