アンナン1833年発行、明命通宝7銭銀貨

状態：PCGS-AU Detail/Cleaned（AU）

このコインはアンナン（現在のヴェトナム）で造られた大型の銀貨です。

アンナンはフランスの植民地になっていたこともあり、アジアとしては珍しく、1800年代初頭から西洋基準の大型銀貨を造っていました。但し、このコインは庶民が一般に使用したものではなく、贈呈などの用途でごく僅かに造られたものです。しかも第二次世界大戦終結以降、フランスが撤退する折にその大半が持ち出されたうえ溶解されたと考えられ、このコインは現在ほとんど残っておりません。

わずかに残されたコインも大半は首からかけるため上下に穴があいています。穴あけを免れたとしても多くは磨きや洗浄痕があって、鑑定会社のケースにおさまり且つ数字が付くものはとても希少です。特に大型銀貨の7銭は人気が高く、2023年4月のオークションでは、明命通宝の7銭銀貨/MS61が38,000ドルで落札されました（総支払額ベースでは680万円ほどです）。数字が付かない個体も相場は上昇し、昨年(2022年)５月のオークションで嗣徳通宝7銭銀貨のPCGS-UNC Details/Tooledが8000ドルで落札されています（総支払額ベースでは160万円ほどです）。なお先日国内で開かれたオークションで、この銘柄のNGC UNC Detailsが総支払額ベース約49万円で落札されました、店主はその個体を下見したのですが、全体的に白っぽく、強く洗浄されたコインでした。

NGCにせよPCGSにせよ、アンナンのコインの多くは数字なしのDetail鑑定になりますが、Detail鑑定をすべて同じ目で見てはいけません。店主は過去多くのアンナンを見てきましたが、同じDetail評価であっても状態は一枚一枚異なります。本貨のようにほんの僅かな欠点の場合もありますし、ピカピカに磨かれている個体や、強く洗浄されたものなど、多くの手が加わった個体もあります。コイン収集を始めたばかりのころは、この差が理解できず、Detail鑑定なら何でも一緒だと思いがちですが、目が肥えるにしたがってDetail鑑定でも随分と市場の評価に差があることがわかるはずです。

なお本銘柄（13年銘、14年銘、15年銘の合計）はNGC社によって60枚しか鑑定されていません。この数字だけ見てもこの銘柄の希少性が分かります。

さてこのコインは、オモテ/ウラともストライク（打ち）が鮮明できれいにセンターに打たれています。オモテ（龍面）の拡大写真のように、龍の胴体のウロコ部分にわずかな摩耗が見られますが、摩耗の進み具合は軽微です。ウラ（文字面）のフィールドに古い時代に磨かれた痕跡が見えますが、時代の経過によって目立たなくなっています。あえて洗浄痕がよく見えるように、コインの角度を変えて3枚に写真をアップしました（7番目、8番目、10番目写真をご覧ください）。特に洗浄痕がわかりやすいのは7番目の写真で、フィールド部分全体に斜めに走る細かいヘアライン状の痕跡が見えると思います。

一方でオモテ（龍面）のほうには洗浄痕がありません、多少まだら状の変色部分がありますが、アンナンのコインは保存状態が悪くこのような変色はよくみられます。それを踏まえてもオモテは大きな欠点がなく好状態です。

アンナンはアジアでは珍しく、すでに1800年代の初頭からこのような世界基準の大型銀貨が発行されました。近年、中国コイン高騰によって、1800年代終盤から1900年代前半に造られたアジア諸国のコインに見直し買いが入りつつありますが、本貨もアジア最初期の大型銀貨で希少性が高く、これから折に触れ注目を集めるのではないでしょうか。ご参考までにですが、たとえば1900年代初頭に発行された中国コインの中には、数万枚という単位で鑑定されている銘柄がありますし、1800年代後半に日本で発行された円銀も、全年銘合わせると1万枚以上が鑑定されています。それらと比べるとこの銘柄の残存数の少なさがわかります。

なお「ときいろ」では昨年にアンナンの紹治通宝の７銭銀貨（PCGS-AU Details/Tooled）を59万円で販売しましたが、その後の円安とアジアコイン相場の上昇によって、当時の価格では販売できなくなってしまいました。